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D.C.Ⅱ.S.S第7話「Cherry Blossom」

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D.C.Ⅱ.S.S第7話「Cherry Blossom」

…睦月の寒空の下…

…枯れない桜は…再び枯れた…

…主たる少女の消滅とともに…

…だからもう止まった針は動かない…

…誰の目にも明らかな終焉…

…けれど…

…彼は、彼だけは知っていた…

…少女の祖母が遺した…

…その呪(まじない)の言葉…

…だから…消え行く桜の中で…

…”彼”は…唱えた…



…『また、春に会いましょう』、と…






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○第7話EX:「さくら、咲く季節」○



……

………………

………………………………

(……………………)

…なんだろう…

…ずいぶんと長い間…

…眠っていたような気がする…

…どうして…ボクの意識は戻ったんだろう…

ふと…舞ってきた花びら…

桜が…咲いている?

音姫ちゃんが枯らせたはずなのに…

そして、もう二度と目覚めるはずの無いボクの意識を
誰かが揺り起こしてくれている。

抱きしめる手は大きくそして暖かい。
ボクはありえない感触への恐怖を振り払って
おそるおそる思念体としての目を開いた。

そこにいたのは…
「よう。」
ボサボサの髪に満身創痍といった体裁。
でもその目はあくまで涼しげで…
年老いたことを感じさせない…

「え、えぇ?」
また黒い欲望の渦の中で見せられた悪夢がフラッシュバックする。
でも今はあの時のようなドロドロした腥い風を感じない。
吹き抜ける風は春風のようにさわやかだ。

匂いも…風音も…その全てが新しい…
まるで枯れない桜全体が春の空気に包まれるかのように…


「ボ、ボクは…あの…その」

「どうした鳩が豆鉄砲でも食らったような顔だな。」
戸惑うボクに帰ってきたのはいつもの軽口…
あまりに信じられない光景にいまだボクは半信半疑だ…

「…何で、お兄ちゃんがここに…?」

「そりゃ、お前を助けるために決まってるだろう。」

「そ、それじゃ、あの時、ボクに言った後は任せろって言葉は…?」

「あぁ、もしもの時は枯れない桜の制御を手伝ってくれて頼みだろ。
 いや、桜に触れた瞬間、お前が苦しんでるのが見えたから
 とりあえず飛び込んだは良いけど全然思うように
 カラダが動かないもんだからさ、どうしたもんかと…。」

そう、彼はさも軽いことのように言ってのける…
それがどれだけ危険なことか承知もしないで…

「バカ!そんなことしたら自分も二度と戻れなくなるのに
 なんで、なんでボクのことなんか…助けようって…。」 

「バカはお前だ。目の前に困ってるやつがいたら
 助けに行く、俺は当たり前の行動をしただけだろう?」

「どうやったら助けられるか、分かりもしないのに?」

「当然だ。飛び込んでいけばとりあえずどうにかなると思った。」

「…。」
もう理解など軽く通り越してめまいすら覚える理屈だ…
でも…でも確かにボクの知っているお兄ちゃんは昔からこんな人だった。
頭が悪くて、面倒くさがりで、かったるいっていうのが口癖で…
それでもいざ他人の窮地のとあったら
自分の身を省みずに飛び込んでいける…

たとえ何年、何十年経っても、
外見はおじいちゃんになっても…
全然…”彼”は変わってなかった…

「ま、何も対抗策ゼロで飛び込んだわけじゃないさ。
 これでもある程度の”魔法使い”としての手ほどきは
 20年ほど前に義娘の由姫さんにしてもらってたからな。」

「由姫さんが…。」
久々に聞いた正義の魔法使いの名前…。
彼女は音姫ちゃん、由夢ちゃんの母親。
そしてお兄ちゃんの子どもと…
この初音島で恋をして夢を叶えた魔女でもある。
確かに彼女ならお兄ちゃんに魔法を教えられる…。

「大変だったぞ、結構スパルタだったからな。
 いとも簡単に生成魔法を使えるのに
 なんで念動力すら使えないんですか?って…まぁ、でも…
 これで由姫さんに貰ったお守りもお役ご免だな…。」

そう言ってボロボロになった首飾りを胸元から放り出し、
”彼”は正義の魔法使いに託された使命を告げる…。

「さて…と、こうやってまた魔法の桜が咲いたんだ…。
 こんな俺たちにもまだ子どもたちにしてやれることが残ってる…。
 お前にも聞こえているんだろう。この桜に流れ込んでくる願いが…」

そう、それは今、やらなければならないこと…

「…うん、そうだね。ここに咲いたのはきっと
 昔おばあちゃんが植えた最初の魔法の桜だ… 
 だから願えば叶う力が…みんなの純粋な願いが
 集まってくるのが分かる…。…感じられるよ。」

「あぁ、どうやらお前の子どもは生まれてからの十数年間で
 本当にこの島のみんなに無くてはならない存在に
 なれてたみたいだな。俺にも聞こえるよ。
 春風にのって届いてくる島中の人たちの声にならない願いが。」

「そうだね…記憶にできた欠落が大きすぎて
 逆にみんなの心が悲鳴を上げてる…
 これだけの想いのチカラを集めてしまうんだ…。
 義之くんは…本当に…ボクの自慢の子どもだよ…。」

「この親バカ…。ま、でも願ってるのは俺も同じことか。
 孫が悲しそうにしてる顔なんて俺も見たくないからな…。」 

…そうだ、まだできることがある。
今こそ願うときだ…

だからボクの全身全霊をかけて

祈ろう、願おう。

叶えよう。

”奇跡”を。

お兄ちゃんに肩を借りながら
立ち上がったボクは持てる力を
全てこの春風にのせ解き放つ。

…そして舞った…

…春色の桜が…

…ひとひら…

…何にも染まず漂うそれは…

…純粋な願いの…

…求める声の方へと…

…義之くんのカタチを描き出していった…


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「…届いた…のかな。」

意識に靄がかかっていく。
まるでこのセカイが
仮初の春の夢に
過ぎなかったんだと
教えるように…

「あぁ、届いたみたいだな…」
お兄ちゃんの声…流石に疲労の色が滲んでいる…

「…良かった…。」
返事をするボクの方も力を使い切って声も上手く出てこない。
それでもほっとした。
そんなボクを抱きかかえてお兄ちゃんは言葉をつむぐ…

「…で、春の終わりと一緒に
 このセカイも散るってことか…。」

「そう…だね。」
枯れない桜が春の一時だけ生み出していた
セカイは今まさに輪郭を失って行っている。
もう長くは持たないだろう。今度こそ本当の終わりだ…。

けれどボクの心は不思議と穏やかだ…
だって義之くんを失わずに済んだのだから。
ずっと孤独だったボクの生きていた証が
未来をつむいで行ってくれる
…それだけでもう十分だ…

そのはずだったのに…

「じゃ、後はお前を助けるだけか。」
続くお兄ちゃんの言葉に耳を疑う。

「え、あの助けるって…ボクはもう…」
何を助けてもらうんだろう。
だいたいどうやって助けるつもりなんだろう。

「…声が聞こえるんだ。アイツの、音夢の声が。
 だからそれを辿ればきっと元のセカイに帰れる。」

…そうだ。お兄ちゃんにはまだ想ってくれる人が居るんだ…

…きっと、その想いの力で意識を保ったんだ…

…音夢ちゃんの”想い”の力はとびきり強力…

…だからボクを助けに来ることができた…

…でも、それはボクには向けられない力…

…ずっと一人で生きてきたボクには…だから…

「…それはお兄ちゃんの為だけの声だよ…
 それは形の無い力なんだ…ボクには…届かない…。」

「…さくら。」
崩壊していくセカイの中で哀しげな目が見つめ返してくる。
その視線に耐えられなくなったボクは思わず目をそらした。

「良いんだ。…これはいろんなものを歪めてしまった
 ボクへの罰なんだ。ホントは義之くんも無くして
 みんなから忘れられて一人ぼっちで消えるはずだった…。」

「だから…お兄ちゃんには感謝してる。ボクの子どもが…
 義之くんが生きれたから…もう十分過ぎるほど助けてもらったよ。」
 
「じゃぁ、お前はもうこのセカイと
 一緒に消えても良いって言うのか?」

「…うん。これは罰だから。もう、良いんだよ…。」 

諦めの言葉、それとともにセカイが
いっそう大きく揺らいだ。

―ッ!

巨大な桜色の波が

ボクとお兄ちゃんを

引き離していく。


「さくら!」
必死に呼びかけてくる彼の声。

「来ないで!」
でもボクの口から咄嗟に出たのは拒絶の言葉。
そして一度発したら、もう覆すことはできない。
そう覚悟を決めて…告げる。

「これ以上、来ないで。このままなら消えるのはボクだけで済むんだから!」

でも、それでも”彼”は進んでくる。
必死で手を伸ばしてくる。

「…後には引けないさ、お前が自分にどれだけの罪があると
 思ってるのか知らないけどな…それでもみんな、お前が大切なんだ…。
 学園長のお前が、保護者であるお前が、友達であるお前が!
 それは俺だって同じコトなんだ。だから俺が想ってお前が助かるなら俺は…!」

「ダメだよ!お兄ちゃんの想いは音夢ちゃんの想いへ向けなきゃ。
 こんなところで互いのリンクが切れたらお兄ちゃんまで帰れなくなっちゃう!」

「ダメじゃない!俺を信じろ。あの時、俺はお前に言ったじゃないか…!
 困ってるときは助けに行くって、『約束なんかしなくても助ける』からって…!」

「…っ!? そんな、50年以上前の…果たし状の時のことなんて…
 だって…あの時…お兄ちゃんは…ずっと…
 音夢ちゃんのことばかり見てて…ボクの…ことなんか…。」

「…確かに、あの時自分の両親を亡くして
 ふさぎ込んでいた音夢のことばかり、俺は考えてた…
 けどお前だってホントは苦しかったんだよな…
 ばあちゃんを亡くして、突然アメリカに行くことになって…。
 でも…だから…お前は…あの別れの日、俺と約束したんじゃないのか!?」

…そうだ。約束した…
…でも、それは『助けてほしい』の約束の他に
…もう一つあった…

…それは突然の春風に消されたボクの告白…

…お兄ちゃんに再会したら…
…『ボクと…一緒に』…

「…だって、ボクの二つ目の約束を…お兄ちゃんは…」

「あぁ、聞けなかった。どれだけ思い出そうとしても
 聞こえたはずのところでリリンと響くんだ…鈴の音が…。」

リリン…と響く…
鈴の音…鈴…それはたぶん”彼女”の音だろう…

「…けど、だからなおさら、お前を失えないんだ。
 俺はまだお前との二つ目の約束を果たしてないから!」

なんて運命なんだろう…
あの日のお兄ちゃんへの約束…

…それは結局、果たされなかった…

だからボクのカラダは止まった
だから孤独になった
…”彼”にしか解けない魔法にかけられて…

なのにボクの”彼”への言葉を遮ったのは…

あの日の桜の裏にいた”彼女”の想い。

でも、それが今、”彼”を守っている。
ボクの目の前に立たせている。
”魔法”でもなんでもない…ただ”想う”だけの力…

けれどそれが、それこそが本当の
”万能のチカラ”なんだと証明するかのように…。

「…アハハ、敵わないよ。だから叶わない…。」
ボクの口から漏れたのは乾いた笑い。

…そう、ボクの想いは”彼女”に敵わない。
だから二つ目の願いも…叶わなかったんだ…。


「…さくら。」
…でも、笑いながら涙を流すボクを見ても…
それでもお兄ちゃんの足は止まらない。

…視線も逸らさない。
こちらをまっすぐに見つめてくる…
もう、諦めてって言ってるのに…

「やめ…てよ…。ボクはもう傷つきたくない。
 これ以上、心が痛くなるのはイヤなんだよ…。」

…ピシリ…

今まで必死に取り繕ってきた心にヒビが入る。
これ以上は保てない…
もうどんな言葉も聴きたくない…

「…さくら…お前が拒んでも俺は…
 誰が何をどう思って、何を言ったってお前を助けたいんだ!」

『…無理だよ。だって50年前、お兄ちゃんが選んだのは…』

心の中でつむがれる拒絶の言葉…。
でも彼は止まらない、止まってくれない…。

「…だってお前は俺の和菓子を出す魔法で
 初めて…笑ってくれた女の子なんだ。
 そんなお前を可愛いって思った。
 はじめて守りたいって思った。
 それまでガキだった俺に人を笑顔にすることが
 こんなにうれしいことなんだって教えてくれた!
 俺は俺の大切な人たちにいつだって
 幸せに笑っていてほしいって思うようになった!
 その”はじまり”をくれたのはお前なんだ!
  …だから、頼む、手を…伸ばせ、伸ばしてくれっ!」

「っ…あぁ、あっ…!」

心が…軋む…。

『ボクを助けて!』
心の中は助けを求めて悲鳴を上げる。
内側から壊れそうなほどの情動が襲う…
いますぐ”彼”の胸に飛びつきたい…

けど…でも…それは…許されない…
だってボクが触れたら最期
今、送られてきている”想い”が切れて
お兄ちゃんの方が帰れなくなるから…!

でもお兄ちゃんは手を伸ばしてくる。
どこまでも懸命に…一途に…
「絶対に離さないから、さくら!」

…そう言って欲しかった…。

何年も、何十年も、ずっと、ずっと。


待ってた言葉…


…でも

…でも遅すぎたんだ…もう50年も…

あの日、ボクは決めたんだから…諦めるんだって。

"彼女”に全部、譲るからって…

今回の件だって結局、ボクが”幸せ”を諦め切れなかったから

過ちを繰り返してしまったから起きてしまったんだ…

…だから…

…ボクは全ての痛みを振り切って

別れの言葉を口にした。

もう、これ以上失わない為に、傷つかない為に…


「ごめんね…。でも、バイバイ、お兄ちゃん。」



その…言葉とともに…

セカイは断絶した。

消えるセカイと還るセカイに。



もうこれで届かない…

今度こそ最後のお別れ…

だから涙が滲む顔に無理やり笑顔を作ろうとする

…けど無理だった。

涙が止まらない。

自分で決めたことなのに。

後悔なんてしたくないのに…。

諦めて涙でボロボロの顔をあげた…

そこに最後のお兄ちゃんの姿を求めて…

そうして見えたのは…”彼”と彼の魔法…

お兄ちゃんとボクに”はじまり”をくれた

お菓子を生み出す時の甘くて温かい魔法の光…

そして…

―視界が、セカイが真っ白に染まった―

それは…

直感的に感じる…

終わりの白。

全ての苦しみから…

これで…

そう思った瞬間…

不意の衝撃が全身を貫いた…

甘くて、やわらかくて、どこまでも温かいチカラ…

そしてその白光に呑まれたボクのカラダは…

消え行く空間から歪曲した空間へと投げ出された…

そして、全てが白に融けゆく中で…

最後の言葉が聞こえた…


『また春に、会いましょう』、と。



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…)





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そこに一人の少女がいた。

金色の髪と透き通るほど白い肌…

そして羽織り込んだのは漆黒のマント…

ハロウィンの仮装行列から抜け出したかのような風貌…

そこはどこか遠い遠いところなのだろう…

巨大な時計塔が見下ろす西洋風の町並み…

「………」

少女はあたりを見回す。不思議そうに。

何故そこに自分が存在しているのかと

分からないから不安だと言うように…

だから少女はその手の中の

唯一の手がかりをぎゅっと握りしめる…


儚げに揺れる薄紅の一枝…


淡く染まるそれは― ”さくら” ―だった…。



----------------------------------------------------


) Fin



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テーマ : D.C.?S.S. ~ダ・カーポ? セカンドシーズン~ - ジャンル : アニメ・コミック

コメント

どうもはじめまして~

ふと此処を見つけて、とてもさくらに対する想い入れが強い方とお見受けしたので失礼ながらコメさせて頂きます。
桜が枯れて消えてしまった義之に対し願いを届けた後のさくらと純一の会話が良かったです。でもやっぱりさくらが真に幸せになれるのはⅠのさくらENDしかないのかなと思ってしまうのですが・・・。アイシアENDはとても幸せそうな雰囲気だったのでそれもそれでいいかなとも思うけど。

Re: どうもはじめまして~

コメントありがとうございます。
さくらファンとして認定されたみたいで恐悦至極です。。。
確かに私的にもアイシアENDはハッピーそうですが
やはり純一と結ばれないと…と思ってしまうので
難しいモノがあります。「Ⅱ」の世界で独りで
もう叶わない夢をそれでも追いかけていく
その脆さというか儚さが好きなので…。
正史でも何かのカタチで報われて欲しいなぁと。

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